六月に観た映画
●スロヴァキアのマルティン・レプカ監督作品『コウノトリの帰還』。夫と別れ祖母の住む田舎の山村へやって来た女主人公。村の人々と交流し、中でもワケアリそうな青年と親しくなる。此の村は東欧数カ国と国境を接する位置にあり、不法入国者の侵入経路としてしばしば使われる。祖母や青年は、其の不法入国幇助を半ば生業としている。其れを手助けする事になる主人公。亡命の問題に加え、恋愛映画の要素もあり、多少のスリルもある。何より緑豊かな村の景色。撮影が素晴らしい。コウノトリの飛翔を捉えたシーンも美しかった。
●ドイツ映画『耳のないウサギ』は、俳優ティル・シュヴァイガーの監督兼主演作。ゴシップ紙の記者が、社会奉仕として幼稚園での労働を命じられる。そこにいた女先生は、子供の頃彼がさんざんからかいの対象としていた女性。再会し、反発し合う二人が、いつしか恋に落ちて行くと云う話。此れはなかなか面白い艶笑コメディー。相当に下品な単語が飛び交ったりするんだけど、結構楽しめた。ラスト、タクシー運転手への復讐のいたずらは最高だったな。
●フィンランド映画『氷の仮面舞踏会』。ペトリ・コトヴィカ監督。夫が若い女と不倫しているらしい。其の相手を突き止めた中年の奥さん、正体を偽って相手の娘に接近。睡眠薬で眠らせ、気づかれぬうちに相手を堕胎させてしまおうとする。其の相手が韓国武道の女講師と云う点がなかなか変っていたな。出来はまあまあ。
●英国の『ジョジーの修理工場』はレナド・エイブラハムソン監督の映画。ガソリンスタンドを兼ねた田舎の自動車修理工場で働く中年男ジョジー。人はいいがちょっと頭が弱い。誠実に仕事をこなしてはいる。其の彼の実直此の上ない働きぶり。高校生のアルバイト少年が職場に来る。少しずつ会話を交わす様になる。ところがひょんな事で、ジョジーは警察の取り調べを受ける事になる。悪気もなくした事で、職を奪われそうになるジョジー、遂に或る方策を採る。ほのぼのとした展開が、悲劇的な終結に結びつく映画。傑作と云う程ではないけれど、ちょっと忘れ難い所のある映画だった。
●ラトビアの『バトル・オブ・リガ』は同国で史上最高のヒットとなった作品らしい。戦争大作。第一次世界大戦時、策謀によりラトビア侵略を企てるドイツ。其れを察知した大統領。首都リガで川を挟んでラトビア軍はドイツと対峙。が、何せ急ごしらえの市民軍。相手は圧倒的な兵力。そこを、隙をついて攻撃、見事に敵を蹴散らす。見事祖国防衛に成功、万歳万歳ラトビア万歳と云う、要するに国威高揚映画であった。そこそこ迫力のある戦闘シーン。でも映画の出来は並み。アイガース・グラウバ監督。
●ブルガリアの『ラプソディ・イン・ホワイト』。テディ・モスコフ監督。舞台の喜劇女優が職を転々とする話。ストーリーのある内容ではなくて、寸劇のつぎはぎみたいな映画。此れはちょっと退屈した。以上六本はフィルムセンターのEUフィルムデーズと云う企画で観る。心打たれる作品には出会えなくて些か残念ではあった。
●川島雄三の『しとやかな獣』観る。傑作。金の亡者の様なアパート住いの一家。なりふり構わず金をせしめ捲る。殆どワンシーンのみで出来た映画。脚本の妙、撮影の妙。役者は伊藤雄之助と山岡久乃がいいなあ。同じく川島雄三で『幕末太陽伝』。云う迄でもない有名作。勿論いいんだけど、川島雄三だと『しとやかな獣』や『青べか物語』の方が好き。
●『劔岳 点の記』。木村威夫初監督作品。山岳映画の佳作。流石にカメラマン出身の監督だけあって、映像は立派なもの。あのロケーションであの撮影を実現したと云うだけで充分な見応えが生まれている。脚本はもうひと工夫あってよかったし、編集もいま一つフィルムを切る度胸が足りていない気がしたけれど、観て損のない映画だった。浅野忠信、仲村トオル好演。
●ダーレン・アロノフスキー監督の『レスラー』。老残のプロレスラーと場末の店のストリップおばさん、二人の侘しい人生が泣かせる。『カリフォルニア・ドールズ』と並ぶレスリング映画の傑作。ミッキー・ロークは別にどうでもよかったんだけど、マリサ・トメイの大胆さと美しさにはびっくりしました。去年『その土曜日、7時58分』でもフィリップ・シーモア・ホフマンと激しいシーンやってた筈なんだけど、そっちは全然覚えてないや。
●『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』。庵野秀明総監督。どうせ又適当にお茶を濁しているんだろうと高を括っていたら、余りに出来がよくてびっくり。テレビ放映時に毎週味わったと同様の興奮を、十四年後にして再び味わわせてくれた事に感激だ。圧倒的なテンションの高さ、煽り上手の健在ぶりが嬉しい。色々あった内容の、省く所はさくっと省いた上で、新キャラ、新展開ときた。例によって小賢しいギミックを新たに仕込み捲った上、前作『序』で見られた陳腐な表現手法、間の悪さが消えているところは殊に宜しい。本気で作り直しているのだなあ。きっと作り手の世代交替もいい具合に進んでいるのだろう。兎に角見終って、此れ程すぐ様再見したくなる映画も暫くなかった気がする。「ネブカドネザルの鍵」か。「ぽかぽかする」か。エヴァ映画版四作目にして初の傑作。
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