十一月に観た映画・甲
●月はじめのNHKアジア・フィルム・フェスティバルだが、実は初日に行って五本立て続けに観賞したのであった。四本目までは結構ハシゴしていた人がいたらしいのに、五本見るバカは私だけだった模様。見終った後、渡辺俊雄支配人から「まさかとは思いますが、今日五本全部観た人!」と訊かれて、手を上げたのが私一人だったのは恥ずかしかったよ。皆から拍手されちゃうし。観たのは韓国の『My Son あふれる思い』、中国の『キネマの大地』、台湾の『Orzボーイズ』、中国の『追憶の切符』、イラク=クルディスタンの『僕たちのキックオフ』。
●『My Son あふれる思い』を見たお客さんの中には、リュ・ドックァン氏の『ヨコヅナ・マドンナ』で韓国映画にハマったと云う殿方もいらっしゃった。『ヨコヅナ・マドンナ』八回観たとかで、凄いや。私は見てません。機会あったら観ましょう。此の中では『僕たちのキックオフ』が一番良かったかな。『Orzボーイズ』もすごく好きだ。
●翌日、残る一本、トルコの『パンドラの箱』を観て、今年のアジア・フィルム・フェスティバルはコンプリート。
●ドイツ映画祭は新宿バルト9が会場になっていて、見やすくて良かった。大スクリーンで観る映画祭、いいもんだね。『ウェイブ あるクラスの暴走』。独裁の実験授業の映画。ドイツで「独裁」が昔話になりかかっている現実と、いつ其れが復活してもおかしくない事の恐怖。教育映画としても観られる映画だが、エンターテインメント性も充分。
●『ノースフェイス アイガー北壁』は、近年稀な山岳映画の傑作。色恋を絡めてしまった所が勿体ない。男だけの厳しいドラマとして突き進んで欲しかった。然し、観る側さえ凍傷になりそうな感覚を覚えさせる映画。会場には山男らしい方々もいっぱいいたけど、そうした人達にも概ね好評だった模様。
●新文芸坐で川島雄三を四作。『青べか物語』は、埋め立て前の浦安が舞台。半農半漁の貧しい土地に流れて来た文士が森繁。あのあたり、医者に出産費用も払えない貧農がいっぱいだったと云う昔語りを私は幾度も実際に耳にした事がある。今の浦安舞浜あたりからは想像出来ない土地柄だった訳だが、映画はのどかでいい雰囲気だ。今では失われた光景を見るだけでも充分楽しめる。
●『グラマ島の誘惑』は、終戦間際、南洋の無人島に残された十三人の男女のお話。男四人、女九人。森繁久彌が宮様の士官で、フランキー堺が其の弟。皇族の仕草を笑いのねたにすると云う何とも不敬なB級コメディ。女優陣も轟夕起子、八千草薫、久慈あさみの元タカラジェンヌを始め、宮城まり子、岸田今日子と揃っている。彼女達の多くが吉原の売春婦の役。ベテラン格の轟夕起子さんに対し、フランキー堺が「内地もよっぽど女に払底しているんだな」なんて云う台詞がある。どこまでも失敬だ。宮様兄弟の下士官役、桂小金治がいい味。
●『イチかバチか』は傑作。吝嗇な大富豪伴淳三郎の金を巡っての騙し合い。三河の市長ハナ肇が、如何にもがめつそうな役で出て来るのだが、実は見どころある男と云う設定。市長の秘書水野久美さんがかわいい。伴淳の秘書は団令子。ハナ肇市長追い落とし一派の頭目に山茶花究。脚本菊島隆三。無駄の無い展開で流石の面白さ。池野成の音楽がいいねえ。此の映画のサントラはちゃんとCD「池野成の映画音楽」に収録されている。私の愛聴盤の一つ。
●『喜劇とんかつ一代』。とんかつ屋の大将が森繁久彌、女房が淡島千景。『夫婦善哉』のとんかつ屋版。フランキー堺やら三木のり平やら加東大介やら益田喜頓やら山茶花究やらが絡むけれど、とっちらかっちゃってる印象の下町喜劇。「♪あ〜あとんかつの脂の味の接吻をしようよ」と云う主題歌が耳に残る。
●前田哲監督の『ブタがいた教室』。児童映画、教育映画みたいな作品。小学六年生が、一年間の飼育後に食べると云う前提で学校で豚を飼い始めるが、Pちゃんと名前をつけちゃったりして、情がうつる。食べるべきか、此の儘下の学年の子に飼育を任せるべきか。子供たちと先生の苦悩と決断の映画。
●悪くはないんだけど、甘いなあ。伊太利の『木靴の樹』では、農家で豚を屠殺して捌く生々しい場面があって、農村の生活の実情を直截に表していたし、前田憲二監督『土俗の乱声』では韓国のムーダンが鳴きわめく生け贄用の豚を踏みつけ、首に刃物を入れて殺す祝祭の場面もあった。それぞれ意義ある屠畜であったのに比べれば、『ブタがいた教室』は丸で温室の世界だ。Pちゃんを食べるにしろ、食肉センターに送るなどするのでなく、自分たちで殺して喰うと云う選択肢くらいは欲しかったところ。
●『櫻の園 −さくらのその−』。お気に入りの中原俊監督、今回も手堅い出来。良作の仕上がり。ただ、完全無欠の十八年前の『櫻の園』に比べると、出来は随分劣ると云わざるを得ない。問題児っぽかった福田沙紀のキャラ設定は一体何だったのかと思わせるし、彼女の姉京野ことみと其の婚約者の仲も、何かありそうな仕込みを入れておき乍ら、結局何でもなかったりする。脚本に不服が残る。音楽も前作に比べると陳腐な入れ方。
●でも心地のよい映画で、見終わってからの満足度は結構高い。次は是非男子校の演劇部で『櫻の園』撮って欲しいなあ。
●『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』。悪ガキ高校生達が田舎の駐在さん佐々木蔵之介にいたずらを仕掛けたりする。或る夏、彼等は病気の女の子の為に病院から見える地点で花火を打ち上げる事を目論み、離れた花火会場から花火を盗み出す計画を立てる。要するに「夏休みの思い出映画」みたいなもの。大した中身はないけれど、退屈はしなかったからいいや。
●『アフタースクール』。まさか半年足らずの間に、お金を払って三回も見る事になるとは思わなかった。三回見ても面白いと思えるのだから、いい映画なのだろう。でももういいです。
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